working-report 2回戦

ゲーム脳はゲーム脳のままで熱を失うだけ

燕雀鴻鵠

「燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや」という言葉が古代中国の「史記」という書物にありまして、若い衆から親会社のシステム導入の話を聞いていて唐突に思い出しました。中期経営計画には「業務のシステム化・自動化を通じてお客様の利便性向上に寄与します」みたいな、ITに疎い人が書いたとしか思えない立派なスローガンが掲げられ、予算が確保された一部の部署は「システム化や!すぐやろう!よっしゃITに相談や!」お祭り状態です。

 

そして打ち合わせに来る人たちが口火を切るのは金の話です。導入コストは大事だからね。

 

そして打ち合わせの終わりまで金の話です。

 

結局金の話以外せずに帰っていきます。

 

君たちはあれか、上がシステム化と言ってるからシステム化するだけで、何のためにやるのか、切実に解決したい課題があるのか、考えも伝えもしないのか?機械は分からんからとか、数字は分からんからとか、さらに年齢的要素も加味して、古すぎてカビの生えた言い訳は聞き飽きた。「何がしたいか」に機械もマイコンも数字も経理もトシもへったくれもないだろう。それを明確にしないままシステム化したって意味がないだろう。ITは納入ベンダの価格交渉代理人ではないので、与えられた予算権限に見合う話が出来ないなら、部内なり担当役員なりに義理を通して、なおかつ本当にやる必要があるのかしっかり考えて話を持ってくるのが君たちの最低限の仕事だろう。仕事のための仕事を増やすんじゃないよ。

 

大企業病と呼ばれるこうした症状は、個人の責任感覚の欠如に由来します。自分がやりたいかどうかはともかく、上司がやれと言っているのでやる。予算はある。予算は使わないといけない。当然足が出るわけにはいかない。使用率が100%ギリギリになってもいけない。だから金の話を最初にしなければならない。業務の効率化よりも、いかに効率的に予算を消化するか、いかにミスなく上司から与えられた課題をクリアするかに意識が向きがちになり、手段と目的が逆転しているのです。

 

業務の課題は何か。どういったことが問題なのか。それをどのように(範囲、程度)解決したいのか。将来的にどんな効果を期待しているのか。まずこれでしょう。その業務にかかる人件費はいくらか、システム導入コストと比較して検討に値するか、コストの話は後です。ITは現場のお困り情報を収集して、その条件に見合う提案を形作り、課題解決に向けて一緒に考える部署です。常に護送船団方式に守られた業界の社内風土に染まり切ってしまうと、当たり前の順序で当たり前の話ができない人間になってしまうのでしょうか。第一線の会社が設備投資によって何を実現しようとしているのかが明確なのに対して、ビジョンがなさすぎます。

 

私がIT担当部署にいた頃、こんなことがありました。ちょっと前にテレビCMをバンバン打ってた「先に言ってよ~」の名刺情報共有システム。関東方面の営業に注力したい部署から「役員がいつどこで誰と会ってどんな話をしたか共有できるシステムが欲しい」との要望を受けた私がその会社の営業と話をしたものの、システム運用範囲と導入コストで折り合えず、申し訳ない気持ちで「言い値」を提示したらそれでも検討したいという前向きな話になったのに、肝心の役員、CEOを名乗る一番偉い役員がこう言い放ったそうです。

 

「そんなもん、なんでいるねん」

 

直接聞いたわけではないのですが、CEOは名刺情報の取扱いを完全秘匿したいらしく(どんな理由か知る由もありません)、一番共有されるべき人物の面会情報が入力されないのではシステムを導入する意味がなくなります。部署の意向としては部署内で共有できれば十分らしく、それなら全社規模でsansanのような立派な名刺情報共有システムを展開する必要もないので、もっと格安の情報共有ツールを使うことをお勧めして話は終わりました。

 

……この話の流れの中で説明し切れない部分があったので補足すると、名刺情報の共有要望が上がった時点で、ITの考えとして全社的に展開すればスケールメリットが効いて、なおかつ社内人脈情報のスムーズな共有が図れるから、ITの手柄にしよう的な空気が発生しました。一般に、要求の肥大化はクライアント(この場合、営業部署)側で起きやすく、それを熟知しているIT側が自ら肥大化させるパターンはあまりないと思います。その結果、CEOが首を縦に振らなかったことで構想は頓挫し、部署の要求にも応えられない事態になりました。

 

2つある大きな問題点のうち、1つめは根回し不足です。CEOも突然そんな話を聞いたところで是と答えるはずがなく、そういう柔軟性を最も期待できないことを我々が一番よく知っているはずなのに、全社的な運営管理が見えているIT側の功名心、ITの存在意義アピールのチャンスという思いが先に立って拙劣な話の運びになってしまったのです。

 

2つめは、システムに精通した役員が存在しないことです。PMBOKを理解せよとは言いません。システム構築にあたり要点をかいつまんで人に伝えるスキルを役員の誰も持ちえなかったことが、会社の今後にとって大きな損失になるのではないかと危惧しています。今回は現場からそうした要望が上がっているのに、向き合って答えようとしない最高経営幹部をどう説き伏せるか?という難易度Zのミッションですが、それが出来る人材がいないと今後の経営は非常に厳しいと言わざるを得ません。現任のIT担当役員なんてCEOの顔色ばかり見ているうえ、このご時世に毎度の説明を対面で行うこと、紙資料を持参することを要求するので、業務改革に資するシステム提案を期待しろという方が無理ですが。

 

こんなことを繰り返しているうちに、時代は恐ろしい速度で技術の進歩を促し、知見の蓄積においても導入実績においても、他業種は言わずもがな、同業他社と比較しても大幅な遅れを取る事態となっています。

 

保護業種はゆでガエルです。コロナによって経営上の課題が十年単位の前倒しで明確になりましたが、これといった打開策を見出せずにいます。経営者は鼓舞はしますが明確な指針を打ち出せていません。それどころか京都に100億以上ぶっこんで趣味的な複合施設を作ってしまい閑古鳥です。今は内部留保で耐えていますが稼ぐ力の衰えが顕著すぎていつまで持つか分かりません。従業員の自然減以前に人員削減を検討すべきかもしれません。

 

人間に代わる業務の機械化・自動化を今こそ考えるべきなのですが、もう遅いかもしれません。天の時はあっても地の利、人の和がありません。あとカネもない。ついてないなぁ。大局に立った経営を目的とする純粋持株会社化。最近は「俺たちは持株会社側だから雑事は子会社にやらせておけばいいんだよ」的な物言いが横行していると当社の監査役から聞きました。これもしょせんはリーディングカンパニーの真似事だったか。やはり、小さい鳥には大きい鳥の考えなど理解できないのか。