先週だったか先々週だったか、「税務申告が無事終わった」みたいなことをしれっと書きました。確かに終わったは終わったのですが、無事では済みませんでしたので、この場を借りて何があったのか詳細にご説明いたします。
今年度から資本金1億円以上など、一定条件を充足する企業は国税(法人税、消費税など)、地方税(道府県民税、事業税など)の電子申告が義務付けられました。これまでは申告書面を紙に印刷して税務署もしくは地方税の各事務所に持っていく必要がありましたが、これからはインターネット経由でお手軽にできますよというわけです。詳しいことは国税庁のWEBサイトに書いてあります。誰も読まないと思いますけど一応リンク貼っときます。
ただ、便利な電子申告をなぜ「義務付け」られるのかというと、役所事務の軽減が主要な目的だからです。一々紙ベースの情報を大小さまざまな法人から提出されていたのでは嵩張る一方なので、全部データ化しちゃえと。もっとも、データ化された書面は全部紙の形式をそのまま引き継いだもので、我々が税務申告に要する手間は「運ぶ」という人力コストが省略されただけで以前と何も変わりません。本紙に添付する別紙の数の多さは異常です。多額の税金を収奪されて支払い事務書類まで大量に作らせるとか意味が分かりませんね。
あまり業務的な話を続けても退屈なのでそろそろ本題に入ります。電子申告には電子証明書が必要です。これは運転免許証やマイナンバーカードみたいなもので、申告データにくっつけることで間違いなくその法人から発信されたデータであることを証明するものです。
2021年6月30日。当社の電子証明書は無効でした。なぜ?ホワイ?7月まで有効なのを確認したよ?
それは市民税(地方税)の申告で発覚しました。受付番号が発番されているのに申告書類が届かないエラーが出るのです。仕方ないので所管の市税事務所に電話しました。
「おそらくeLTax(地方税用の申告ソフト)の問題だろうと思いますので、サポート窓口に電話していただけますか?」
はいわかりましたということでeLTaxのサポートに電話。
「同様のお問い合わせを複数いただいておりまして、おそらく認証局(電子証明書を発行する法務局の一部署)側の何らかのトラブルと思われますので、お近くの法務局に電話していただけますか?」
あーそうなんですね分かりましたということで当社を所管する法務局に電話するも、つながりません。同じ問い合わせで同じ案内してたら、同様の問い合わせが殺到しているに違いありません。仕方ないので東京法務局に電話。
「認証局のエラーは特にございません。一度所管の税務署にお電話していただけますか?」
所管の税務署とは法人税(国税)を納める先です。ハイハイ電話電話。
「いえ、こちらには届いてませんね。受付番号も出ているのですか?おっしゃっていただけますか?午前と午後で1回ずつされてるんですね?はぁ、どちらも届いておりません。やはり認証局エラーなのではありませんか?」
「市税事務所です。えっ?税務署にも届いてないんですか?地方税事務所は税務署にならえなので、税務署の対応にお任せします」
「道府県税事務所です。それは困りましたね……条例でeLTaxが特殊な事情で利用できない場合の対応が定められてますので、確認しますね」
「税務署です。道府県税事務所と市税事務所はそう言ってるんですね?ではどうするか協議しますので。認証局エラー有無の確認はどうなりましたか?」
「法務局です。認証局のエラーは出ていませんね。本当に期限内の証明書ですか?」
見ろ、人がゴミのようだ。そして法務局の職員が何気なく、思い出したかのように言いました。
「あ、代表者変更の登記手続きに入ってませんか?手続きに入った時点で証明書は無効になりますので」
先に言えよ!!
それ一番可能性の高い話だよ!!
……取締役の任期は会社法上トリッキーな規定があるのですがそれは各人の興味と趣味の赴くままにお任せするとして、どの株式会社でもだいたい1年(次の株主総会終結の時まで)が相場です。取締役選任後、普通の会社では直ちに取締役会を開催し、代表者(いわゆる社長)を決定します。で、法務局で代表者を変更する手続き(登記といいますが詳しい説明は省きます)に入った時点で、電子証明書は無効になるというのです。おいおいそんな大事な話はじめて聞いたよ?んでどうすればいいの?
「いったん代表者変更登記手続きを取り下げると、電子証明書の効力は回復します」
株式会社の登記手続きは株主総会終結後14日以内にやらないといけないので、取り下げたら登記懈怠で罰せられるんですけど。
「あぁそうなんですね、どうしよっかな」
お前を真っ先にいぼ痔にしてやると思いかけたところで、こう言われました。
「登記完了後、新しい証明書を取得いただくしかないですね」
まぁそうなりますね。たださぁ、きょう6月末じゃん?きょう申告できなかったらさぁ、事後申告になっちゃうじゃん?どうすりゃいいのさ?
「電子証明と登記以外分かりませんので、所管の税務署にご相談ください」
「税務署です。やはり証明書の問題だったんですね。署内で対応協議中ですので」
「道府県税事務所です。特例申請で書面提出が可能です。書式がありませんので、●●県のサイトからダウンロードいただいて……」
「市税事務所です。きょう申告しないと事後になりますよね?紙でいいので印刷して持ってきてください」
「税務署です。紙ですか?紙はダメです、法律で決まっておりますので」
……いわゆる縦割り行政のチームプレーと申しましょうか。各当事者間の華麗なパスワーク(たらい回しともいう)に翻弄され、原因特定までに多大な時間を浪費し、それへの対応で1日がつぶれました。あと、道府県税事務所で神対応してくれた女性と結婚したいと思いました。地方税(道府県民税、市民税)の対応は紙提出で何とかなりましたが、なんともならなかった法人税申告について、後日連絡がありました。
「今回の申告は期日前ではなく事後申告の扱いとします、次回同じことを繰り返すと青色申告が取り消されますので」
当日申告できるように電話相談もしてあれやこれや対応したのにそれかよはいそうですか分かりました。
……電子申告義務化の初年度にあたって、大勢の素人電子申告者が存在するであろう初年度にあたって、電子証明書の効力がどのような場合に失効するのか、はたして役所はどこにそれを明示しているのか調べたら、ありました。
e-TAXでもeLTaxでも、もっと大々的に書いておくべき注意事項じゃないのこれ?「証明期間中であっても電子証明書が失効することがあると聞きました」私それ聞いてない。え、なに、常識なんこれ?誰の?それにさ、これ普通に読んだら登記手続きが完了した時点かと思うじゃない?それ明記してないじゃない?手続きに入っただけで無効とか、どんだけ我々を疑ってるんだ?
もし、行政職員の方がここをご覧になることがあったら、ぜひご意見をいただきたいものです。民間事業者は表向き巨大でも、台所事情は火の車です。ごく少数の従業員で事務作業をやりくりしています。忠実に税金を納めているのに、なにゆえこのような過分の業務負担を課されるのか理解に苦しみます。会計システムと連動する申告書類作成ソフトウェア導入してなかったら死んでたわマジで。民間企業の皆様にあっては、私の経験談を通じて同じ轍を踏まれませぬよう、心より祈念しております。お酒飲みたい。