working-report 2回戦

ゲーム脳はゲーム脳のままで熱を失うだけ

会社とYさんと私

皆様こんにちは。身内話で恐縮ですが話さずにはいられないことがありました。

 

事務「gentlyさん、会社OB会の名簿確認してください」
じぇ「わかりました……あれ、Yさんいないですよこれ」
事務「Yさんは社長命令により除籍になりました」
じぇ「は?」

 

聞けば、Yさんは人事異動で出向先の当社を離れるにあたって歓送会を開いてもらったのに、時刻になっても姿を現さず、しびれを切らして事務員さんが電話連絡したら開口一番、

「あー、忘れておりました、すっかり忙しくしていたもので」

会の終盤にのこのこ現れ、これといった謝罪の言葉もなくお料理を猛烈な勢いで平らげ、特に何のコメントもないまま餞別金1万円をせしめてさっさと帰ったことに対して当時のS社長が大激怒し、「こいつは二度と呼ぶな、顔見るだけで不愉快や」ということになったのだそうです。その後も事務員さんの暴露話は続き、

 

事務「コーヒーが飲めないとかで、お茶代を会社付にしてたんですよ」

 

会社には来客用の名目で実質従業員用のコーヒーサーバがあるんですけど、Yさんはそのコーヒーがお口に合わないだかなんだかで、自分の飲みたいお茶を会社費用で購入していたそうです。この総務課長やりたい放題だな。今同じポストの私が思うに、たぶん盆前の業務閑散期は毎日朝から晩までウィキペディアを見ていたのでしょう。実際ヒマで仕方がない。そんな私ですら、自分で飲む冷たいコーヒーくらい毎日自販機購入してるのに。

 

事務「異動になった後も何か知りませんけど来ましてね」
じぇ「並の心臓ではないですねYさん」

 

前職場から実質出禁を食らっているのに、業務上必要であれば異動先で用意されているだろう何かのソフトウェアのライセンスをコピーしたいとかでやって来た時はさすがに、

 

「それ犯罪やろ!勝手なことすなアホ!帰れ!」

 

M取締役から大目玉を食らってなおぶつくさ言いながら、すごすご引き下がったそうです。さすがに恐ろしかったようでその後は姿を見せなくなったのですが、強面で業務に厳しくても普段は至って温厚なM取締役が罵詈雑言を交えて怒声を発する状況が私には想像できません。

 

Yさんは一見人当たりが良さそうな雰囲気を出してくるんですが、何を基準にしているのか不明ながら対人認識の上下関係がはっきりしていて、基本的に入社年次が下の人には上から、年次が上の人でも見くびれば上からの目線で入って来る、はかれない人です。阿波連さんほど可愛くもなければ男前でもないのではかりたくもないんですが。で、自分が下と認定した人から何らかの指摘を受けると、どういう原理なのか猛烈な早口で何かを反論してきます。一発ぶん殴りたいほどの勢いで。よく聞き取れないので結局沈黙してしまい、事態は何も改善されません。いわゆるごね得です。

 

Yさんのあり方について、当社を退職して今は転職の都度待遇が向上している元労務課長Tさんは「時代の先を見据えたクレバーな振る舞い」と評しています。Yさんは先述のような人なので、職場の人間関係に形容しがたい不和を残し、上司の覚えもめでたからざることから、なかなか出世しません。しかしそれはTさんに言わせると狙ってやっていることなのだそうで、

 

「管理職クラスはな、今どこに行かされるか分からへんやろ?ある日突然出向させられたり、転籍になって給料爆下がりしたりで大変や。その点監督職層は安泰やで?いくつになってもずっと本社やし、出向はあっても転籍の心配はないわ。んでまた古い会社やし、いまだに終身雇用ゆうてる業種なんか他にないで?そのぶん業界の血が濃くなりすぎて、ただのサラリーマン企業の分際で同族企業化しとるやろ?そういう会社はな、人事評価のマイナスをいつまでも引きずるねん。学卒の幹部候補が200人ぐらいか?そんなん顔と名前が全員に知れとるから、評価もくっついて情報出回るやろ?経営者のお気に入りにならんと偉くなられへんねん。そのくせ上がったところで待遇手厚いかというとそんなこともないしな。人件費なんかコストとしか思ってへんわ。一流企業ぶるくせに待遇はなぁなぁやねん。血の濃さが悪い方に出とるわ。内部留保こんだけ抱えてて給与増やさへんてどんな判断やねん」

 

……さすがの観察眼というか、説得力があり過ぎる話に頷くしかないのですが、Yさんの話をしていたはずが会社批判になっているTさんはよっぽどしんどかったのでしょう。古い企業体質と血の濃さゆえに人事評価はいつまでもマイナスを引きずる、一度ラベリングされた者は出世しない。これはよく分かります。私は入社直後から皆様の期待に反する結果しか出せないことへの減点と、会社が期待する人物像から大きく外れた振舞いが圧倒的マイナスに振れているので、永久に管理職にはなれないでしょう。Ýさんはそれを逆用して、偉くならない独自の立場を築いている、唯一無二の存在やとTさんは言います。

 

会社で偉くなることだけが人生ではない。これは私もそうなのでよく分かるんですけど、じゃ私はYさんを手本にしているのかというと、そんなわけあるかと言いたい。ただ、処遇が同じである以上、そこに至るプロセスに差異があることを躍起になって理解してもらおうとするのは限りなくダサい。入社同期たちが管理職に上がっていく中で、自分が取り残されている感覚は当然あるわけで、それを引き立てる周囲の目、あの人はなぜ上がらないのか?と口に出さないまでも、誰もが同じことを考えるであろうことに対して、私はどう答えていいのか分からないのです。これを世間では「居たたまれない」といいます。

だからと言って他人の憶測を振り払うために管理職を目指すなんてまっぴらごめんで、仕事量と責任が倍加するのに金銭的待遇に大差のない管理職へのモチベーションが作用しないのです。なれないこと以上に、なりたくない。なので夏前にレポートを提出して、人事担当役員の面接を受けて、そこまで来たらほぼ昇格間違いなしと言われていたそれらが終わって留任の知らせを聞いたとき、ものすごく安心したのです。Tさんが話していた通りの会社でこれからを生きていくために、偉くならない選択肢は十分にありうると思います。その考え方はYさんと共通しているのかもしれません。

 

7月に私の部下になった方の前業務を引き継いだのがYさんでした。異動からかれこれ1か月以上経ちますが、毎日のように、1日に何回も、仕事の進め方について電話がかかってきます。たまに部下の方が状況確認のためにフロアをまたぐこともあります。決まって2時間は帰ってきません。私、この人と同じだと思われてるんだとしたら死にたくなるわ……。