working-report 2回戦

ゲーム脳はゲーム脳のままで熱を失うだけ

ヒメノスピア。

4年前に両目とも緑内障を患っていることが判明し、目薬で進行を止めている状況が続いています。ところが最近、再度視野検査を行った結果、右目の状態が相当進行しており、右目の欠けた視野を左目が補うという、互助精神に満ちた体になってしまいました。というわけでむさぼるように紙のマンガを読んでおりますgentlyです。マンガはいいね。縦書きの文字を追えなくても、絵ならちゃんと見える。たまに何が描いてあるかよくわからないけど、たぶん見たことない構図に脳が混乱しているだけだ。

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女子の口から何か出てくるのは見てしまうほうです

 

遠方の友人(ちゃんと女子の友人もいるのです)に勧められて読み始めた「ヒメノスピア」。家の中にも外にも居場所のない女子高生が奇妙な蜂に寄生され、おしりから鉤付きの長いしっぽが飛び出し、人を刺すことで仲間にしていくお話です。友人がなぜこれを私に勧めたのか理由を聞いておりませんし、この先を推測するのも不躾であることを承知で1巻の感想を。

 

社会的あるいは身体的にどんなステータスにいる人でも対人関係、組織、社会、世界に対する疎外感が多少なりともあって、自分の頑張りが正当に評価されていないとか、なぜこの人は私に対して害意を持つのかとか、私だけいつまで病に苦しめられるのかとか、理不尽に思われることのせいで生活上の不安が増幅され、これと共存することが「生きる」ことだと言われている中で、もしも劇的に解決する方法が見つかったとき、人はどう行動するのか?を作者は問うているのでしょうね。

 

本作に登場する園藤姫乃の場合は「生きる」難易度が桁外れにハードで、疎外感なんて生ぬるいものではなく排撃的な世界とでも呼ぶべき環境にあり、今日明日自殺してもおかしくない状況で異能の力を得た結果、願うことすらあきらめていた優しい世界に近づこうともがき始める過程で、なぜ邪魔する奴が現れるのか葛藤しつつも戦うことを選択します。

 

自分を含む大勢の幸せのために戦うことは精神的に健全ですが、肝心の手段がチートで、ましてや他人の精神を支配するとあってはは危害を加えてでも鎮めようとする勢力が出てくるのは必然です。どうしたって理想と現実の歪みから逃れられないその先には、世界への希望ではなく諦めが待っていて、抗戦と服従のいずれを選んでもその諦めにたどり着くことを私たちは現実世界の経験上なんとなく知っているから、彼女の悔しさ、苦しさに共感できるのではないかと思います。それに、このような戦いの果てに真に自分のための理想郷を築き上げたお話は見たことがないし、もしそんなものが出来上がったら主人公以外にとってディストピアでしかないですし。

 

ただ、こないだまで自分のことを虫だのなんだの呼んでた人たちの態度が手のひら返したみたいに豹変し、それが寄生した蜂の能力によってもたらされたと分かっていても、ちやほやされて幸せを感じる彼女はすでに対人感覚が狂っています。旧世界でさんざん自分を弄んできた人間たちのことをも庇おうとしているあたりで、女王の風格より先に張りぼての友情にほだされている薄っぺらさを感じました。見せかけの幸せの向こう側にあるのは破滅であり、彼女自身にそれを制御、回避する頭脳も胆力もないと薄々気づいているんじゃなかろうか。その先をどうしようと考えているんだろうか。

 

それはともかく姫乃ちんは人をぶっ刺すとき、ミニスカートをまくり上げて、下着も半脱ぎの状態からビューッと針が出てきます。つまり読者の我々はJKのおパンツと半ケツを同時に拝めるという、筆舌に尽くし難い多幸感を味わえるのです。標的にそれが見えないのはお気の毒ですね。その様子を作中で目の当たりにした人たちは一様に「化け物!」と言って逃げまどいますが、人なんてものは人の姿をしているだけで、中身に何が巣食っているかなんて心身とも丸裸にしないと見えないものだと思えば、あんな人をぶっ刺すしっぽぐらいなんだというのですか、可愛いものじゃないですか。

 

1巻読了の時点で2つ連想した作品がありまして、人を思い通りに操るという点で「コードギアス」、蜂の寄生・憑依という点で「偽物語 かれんビー」です。

 

前者は「ギアス」と呼ばれる能力で、1回限りの命令しか与えられず、一定時間が経過すると効力を失うものですが絶対服従の効果があり(物理的に実現不可能な命令の場合とギアスキャンセラーが発動した場合は絶対とは言い切れませんが)、あわせてキレッキレの頭脳を駆使して一大帝国を築き上げる妹好き好きシスコンエリートストーリーの金字塔としてご記憶の方も多いでしょう。かの主人公・ルルーシュはC.C.と契約する以前から地頭は優秀でしたが能力ひとつで世界をどうにかできたわけではなく、能力の行使とともに頭脳がシェイプアップされ、その頭脳の導き出した戦略で人を引きつけ、「黒の騎士団」を形成したのでした。園藤姫乃はルルーシュになれるのでしょうか。

 

後者は……蜂の憑依ですら事実無根のハッタリで、火憐ちゃんが熱病に苦しんだ末に、憤慨した兄貴が詐欺師と直接対決に出向くもいいように言いくるめられて帰ってきたらなんか解決してたというよくわからないお話でした。だからあのシリーズは「化物語」と「傷物語」でやめときゃよかったんだと心から思ったものです。小説を読みアニメも見たけど全く腑に落ちなかった。面白かったのは冒頭の歯磨きシーンですかね。あの火憐ちゃんはとてつもなくエロくてキタエリさんの実力を思い知りました。ただ、蜂に憑依されると熱が出るとか死にかけるとか、それに近い恐怖感が表れてくるかどうかですね。蜂に寄生されたことで身体的に不利益を被ることはないのか、人を刺し続けても当人の身体に何らかの負荷はかからないのか、気になります。あと子供を産むとどうなるのかとか。

 

あとはそうね、「ヒメノスピア」というタイトルにはたぶん意味が2つ乗っていて、英語で書くとわかりやすい。

①Himeno's Pia
②Himeno Spear

①は作中にも出てきた通り主人公の理想郷(utopia)、②は人を突き刺す一本の槍になった、この解釈で行くとおそらく主人公のさらに上位に何者かがいて、主人公に槍働きさせているだけという展開もうっすらと見えてくるんですが当たってるかなどうかな。

 

冒頭に書いた緑内障の話は次回にします。