年の瀬に何の話をしようと思いを巡らせた結果、今年のテレビ放送で唯一パッケージ購入した「放課後ていぼう日誌」についてまともに触れてなかったことを思い出しました。
熊本県芦北町をモデルにした舞台に、女子高生だけで構成された魚釣りの部活動「ていぼう部」の日常を描いた作品で、取材と描き込みを中心に動画工房の丁寧な仕事ぶりがいかんなく発揮され高い評価云々は他のサイトにも書いてあるのでこの辺にして、私が本作を高く買っている理由は3つあります。
1つめにして最大の理由は帆高夏海ちゃんです。
↓映像カット貼り込みはアウトなのでこちらから
↓意見が一致するはてなブロガーもいらっしゃった
見るからにお日さまの匂いがしそうな元気っ子ですね。運動全般が得意、竹を割ったような性格、色気よりも食い気と見た目想像どおりのことが書かれています。
それは第1話のこと……主人公・陽渚ちゃんの幼なじみ(陽渚ちゃんは忘れてましたが)として登場した瞬間、真剣な面持ちから一転して釣り竿を丁寧に置いて、この置き方がテンションと比例しない丁寧さで道具を大事にする夏海ちゃんの内面がよく出ててめちゃくちゃ好きなんですが、それから子犬みたいに嬉しそうな顔で陽渚ちゃんに駆け寄って飛びつく姿にヘッドショットされました。役の名前とご自分の名前がかぶる川井田夏海さんだけに、なんて可愛いんだ。陽渚ちゃんはビビってましたが。
その後の自己紹介もまた可愛いんだな……
「はい!1年帆高夏海15歳!好きな食べ物はナポリタンとカツサンド!好きなことは体を動かすことです!よろしくおねがいします!」
言葉の端々に嬉しみ楽しみがハジケてます。こんな新入部員が来たら私は抱きしめます。
さてしかし、ただの元気っ子に高評価を与えるほど私の目は節穴ではありません。彼女は元気っ子と親和性の高いいたずらっ子の属性も持っていて、陽渚ちゃんに「いじわるー」と言われてしまうのですが、そいつは違うぜ陽渚ちゃん。素直じゃない男の子が好きな女の子にちょっかいを出すように、夏海ちゃんは陽渚ちゃんと会えたうえに一緒に部活できるのが嬉しすぎて、ついチクッとすることを言っちゃうのです。
そんな物言いに反して、夏海ちゃんは絶対に陽渚ちゃんの不利益になることをしません。釣りのスキルを丁寧に教えてあげるし、お小遣いを前借りしてウェアを買った陽渚ちゃんのために帽子をみんなで相談して買ってあげるし(それをいつも身に着けてる陽渚ちゃんも大変に尊い)、従前のイメージを覆す秀才肌であることが発覚する中盤では、釣りにのめりこむあまりテストのことをすっかり忘れて赤点すれすれの低空飛行が懸念される陽渚ちゃんに勉強を教えてあげるし、マルチスキルで主人公をフォローする理想的な優しい子なのです。愛です、愛ですよナナチ。
唯一陽渚ちゃんが被った不利益といえば第5話の干潟くらいでしょうか。「泥パックしてやるー」と追いかけてくる夏海ちゃんが足を取られて転倒しそうでしないくだり、顔面泥だらけにしたのは結局夏海ちゃんで、Aパートが終わるまでそのままという展開には死ぬほど笑わされました。
……旧知の読者様はお気づきかもしれませんが、元気、八重歯、笑顔、優しさといえば私の奥様こと我那覇響ちゃんに共通する要素です。田舎ですくすく育った女の子は良心のかたまりのような性質になるのでしょうか。なんで私の田舎はそんな女の子いなかったんだろう。海にも近かったんですけどね。夏海ちゃんが出てくるだけでとても楽しい気分になります。
2つめは熊本弁です。陽渚ちゃんのお父さん役の田尻浩章さん、黒岩部長役の篠原侑さん、たこひげやの親父役の千葉繁さんの、マザー・タンと呼ぶに相応しいネイティブな熊本弁が炸裂しています。三人寄れば文殊の知恵なのか、このお三方がいるだけで強烈な地元感が出ています。イントネーションに精通した熊本県民には微妙な違いの聞き分けも出来るのでしょうけれど、私どもには十分です。
中でも黒岩部長の登場機会が多く、ちゃんと見れば素敵な女性なのに、ていぼう部に馴染み過ぎて全く女を感じさせない言動と、ずる賢い挙動時にキツネのような耳が生えてくるのと、独特のとろーんとした話し方がだんだん可愛らしく見えてくるのです。それでもやはり先輩だなぁと思うのは、後輩たちがキャッキャ釣りをしている間も静かに見守っている泰然自若とした姿です。潮干狩りの回で2年の大野さんから「部長、よかったですね」と言われたあとの言葉少ないやりとりで泣きそうになったのは歳のせいでしょうか。
たこひげやの親父はちょっとスケベな優しいおじさんという、都会では絶滅した生物を千葉さんが楽しそうに演じておられます。来週もキリコと地獄に付き合ってもらう日々と血で血を洗う世紀末救世主伝説の日々は遥か彼方ですが、出番が少ないのになんというインパクトか。
陽渚ちゃんのお父さんはおうちの状況から設計士的なお仕事と推察されますが、回を追うごとに窶れていく理由が分かりません……設計は激務なのか……少なくとも陽渚ちゃんがお嫁さんになるまで頑張っていただきたいと願わずにはいられません。
そして3つめは、歴代動画工房作品に通底する、限りない作品愛を裏打ちする技術です。愛ですよナナチ。私の人生とともに動画工房の元請作品年表を交えた具体論を展開していたらとんでもない文字数になったので、とりあえず1枚だけ写真あげて稿を改めます。
原作研究と並行した現地取材と、風景や釣り道具や魚の実物観察、それらを持てる技術の限りを尽くして表現しています。封入特典のスタッフコメントではさも当然のようにあっさり記述されていますが、「え、そんなとこまで調べたの!?いやすごくね?」みたいな話が満載でした。過去の積み重ねが花開くとはこのことなんだなぁと思いますよ。悔しいのはBlu-rayの売り上げが伸びなかったことですが。
「放課後ていぼう日誌」は、近年の部活系アニメの中でマナーやエチケットを非常に意識した作りになっていました。作中での彼女たちの振る舞いはもちろん、各話の最後に俳句形式でゴミを持ち帰ること、遊漁券をちゃんと買うこと、釣り後の堤防の始末、海難事故に気をつけることなどが詠み上げられ、ジャズっぽいエンディング曲に入るのが毎回心地良かったのは、彼女たちのマナーが気持ち良かったからでしょう。昔のJTのCMのようです。そしてテレビ放送時の次回予告は♪ピッポローピロロピッポローのあの曲に合わせて「次回はここで釣るよー」とだけ表示される抜けた感。寝る前に見れば心穏やかに眠れること間違いありません。これも作品理解に根差した愛なのかもしれませんね。愛ですよナナチ。
原作を全く読んでいない私に新しい境地、全く関心のなかった釣りをより身近に感じさせてくれた本作、是非ご覧ください。
アビス課長「寝る部屋で一人で見てて、気ぃ付いたら全部終わってましたわ」
(アビス課長について詳しく知りたい方はこちら)
課長には今後なんらかの負荷がかかる作品をお勧めすることにしよう。