working-report 2回戦

ゲーム脳はゲーム脳のままで熱を失うだけ

ヤれるはずない委員会

シリーズ記事の筆が思うように進まなくて、別のことばかり書いております。今週の初め、ある女子とデートと言うほどではありませんが2人で飲むことになりました。普段お誘いすることはあっても誘われることは稀だったので乗っときたい気持ちと、何ならその後も乗れるんじゃね?な気持ちが少なからずありましたのでへらへらしながら出て行った訳です。

谷四のそのお店はコの字型のカウンターとテーブルが配置された20人ほど入れる広さで、八寸と蒸物が既に置かれていました。日本酒はどれを選んでも半合グラス一杯500円。徳利と猪口で分け合えないので彼女は私が頼んだお酒を当然のようにグラスに口をつけてちょっと飲みます。私は間接キスごときで勃起する中学生ではないので、大人の余裕で怯むことなくそのグラスを飲み干します。感染リスクという、時節柄注意警戒されていることをその後も淡々と繰り返してました。お代は13,700円、だいぶ飲みましたがお安いものです。酒の勢いで乗れるんじゃね?と考えれば。

 

大人の乗り物・タクシーで移動した先は桜ノ宮界隈にあるシックなバー。次は君に乗せてくれるんだね?とか愚にもつかぬことを考えながらアイラのロックを転がしてました。ボウモアもカリラも消毒液のようなにおいで精神を現実に引き留める鎮静剤です。私かっこよくないですか。

そのとき彼女が始めたのはワンチャンの話でした。とても遠回しな言い方でしたが、何らかのよこしまもしくはたてじまな期待が私にあるのかどうか測定するような話し方でした。青春の覇気うるわしく、私は下半身にぶら下がっている熱くて燃え上がりそうなエンジンキーを、6気筒エンジンに勝るとも劣らぬ1亀頭エンチンキーを心で握りしめながら、あくまで平静を装って言いました。ワンチャンはあれば乗りたい。しかしワンチャンはとても面倒くさい。ワンチャンがその後に引き起こす結果は私の知る限りろくなことがない。だから私はワンチャンに期待しない。一般論に見せかけた当事者論であることはすぐに分かりましたので、遠回しに今そのつもりはないと言ったんですね。本当は乗りたくてウズウズしてるのに、私かっこよくないですか。

文字通りジェントルな私の回答にかぶせて、彼女はこう言いました。

「後腐れがなかったらワンチャンに乗りたいですか」
「はい乗りたいです本当にそんなものがあるならば」

両者の酒量が相応に進み、話が一般論に戻ったように見えたので素直に言いました。据え膳食わぬは男の恥。でもそれは今夜なんですか。違いますよね。私は知っていますよ。本当は「今日どんなトランクスはいてきたっけ?竈門炭治郎みたいな市松だった、ギリセーフ」とかもはや意味のない安全確認の段階まで妄想が進んでるのに即座に反応して本音とも一般論ともつかぬ当意即妙な回答を寄越すなんて、私かっこよくないですか。バーのお支払いはいくらだったか忘れましたが安いものです、この後の肉弾フルスロットルを思えば。

 

帰りはタクシーが捕まるほどにぎやかな場所ではないので2人とも徒歩です。彼女は思い切った行動に出ました。寒い、めっちゃ寒いと言いながら私に体を預けてきたのです。横腹めがけてタックルされている状態。タックルヘイブン。巻きすぎると糸が切れる、でも今は思いっきり私に食いついている、これはワンチャンある、ワンチャンあるぞと釣り人の興奮がクライマックスに達し、その先は詰将棋のように繊細な思考と行動が試される、極めてセンシティブな局面です。皇国ノ興廃此ノ一戦ニアリ各員一層奮励努力セヨ。もっとも釣りたいのはマグロではなく暴れ回るヒカリモノで、差し込みたいのは冷たい駒ではなく燃え滾るエンジンキーですが。

「えぇぇちょっと大丈夫ですか」
「すんすん、寒いっ、うっあっ」
「ちゃんと家まで帰れますか?」
「帰れます、大丈夫です」
「本当に大丈夫ですか」
「大丈夫なので途中まで送ってください」

ボールはどちらが持っているのか、まぁ私には着脱不能のボールがたぶん2個ありますけれども深夜の街路を1対1でモールしながら歩く奇怪な構図が数分続き、大通りの交差点に差し掛かり赤信号に止められたところで、彼女はより一層強い力を込めて私の横腹を抱きしめてきました。タックルヘイブン。私の家は通り過ぎた。この状況は何だ。そうか戦場は君の家かいいだろう。

「じゃ私ここまででいいんで」
「持ち帰りたいです」

彼女は口元がマスクで隠された目元だけでもわかるほどの微笑みと、それが勝利を意味するものだと瞬時に理解してもなお可愛いと思ってしまうほどの魔性も同時に湛えて、信号が青になった横断歩道を、先程の縮こまり具合からは想像できないほど滑らかな駆け足で、まるで少女がスキップするように走り渡って行きました。ワンチャンは元気なワンちゃんのごとくリードを振り切って走り去りました。ガールズバー呼び込みのバニーヘッド女子が私たちの様子をきっと見ていたであろうに、私が振り返った頃にはよそ見をしていました。なーんだ、見透かされていたのは私だったんだ。急速冷却されたエンジンキーをぶらぶらさせて家に帰り、何本かエッチなビデオを見ましたが、お酒の威力が強まったのか弱まったのか使いものになりませんでした。

 

翌日夜。カセットコンロにティファールを乗せて別寅の練り物を炙り、浦霞の中取りを冷でいただきながら、ご近所の諜報分析官と話し合いました。

 

「それはね、観測ですよ」

 

 

見えないものを見ようとして
望遠鏡を覗き込んだ

潜望鏡も万華鏡もなかったのに!

 

「彼女の最終目的は、文化的な会話が楽しめる環境を手に入れることと、その相手がお金持ちであることです。最初のパートナーは文化的ではあったかもしれませんがお金がありませんでした。そして今のパートナーはお金は稼いでくるんでしょうけど、文化的な会話ができないヤンキーなんでしょうね。そのヤンキーから自分を知的な存在として認めてもらいたいのになかなか通じない。お金を稼いでいる人が次に求めるのは本物の知性、血統なんですけど、そこには厚い壁があります。日本の上流階級と呼ばれる人々に入り込むために、自分の残り時間を見ながら手探りしてるんじゃないですか(分析官のお話をだいたい要約)」

 

そこまでお見通しというのはさすがと申しますか、人を見るというのはそういうことなんやなと感心しきりです。上昇志向の強い女子は考え方が違います。年齢を重ねることで避けられない容色の衰えに抗いながら、どこまで上へ行けるのか考えている。その努力は称賛に価します。ところでそんな大志野望を抱きながら、ワンチャンあればハッピー程度の私を使ってそんなことを観測してる場合なのでしょうか?

という疑問を解決するキ-ワードとして「文化」が出てくるのです。つまり私の存在は彼女の中で一定程度文化的なのです。私かっこよくないですか。パートナーからは得られない満足感、自己肯定感を得るために、女としての自分がどこまで通用するか、私を使って少しずつノッチを上げて様子を見ていたというのです。なるほど、間接キスに始まり、ワンチャントークを経て、最後はタックルヘイブンまで行きついた。

 

「女としての魅力を確認できた一言を引き出すまで相当譲歩したことをどう思ってるかは知りませんけど」

 

非常制動がかかるくらいまでノッチアップしていたんでしょうかねあれは。まぁ序盤からスケベ心ありありでしたけど、頑張って紳士やりましたよ。金も全部払いましたよ。全部スケベ心のためですけど。

 

「万が一自分に危害が及ぶとなればすぐに離脱しますよ」

 

あれは少女スキップでもワンちゃんでもなくガゼルだったのか。優れた危機回避能力だ。

 

「女としての魅力に自覚的であっても、自惚れではないかみたいな疑念が常にあるんでしょうね。確認するにもパートナーでは反応が見えづらくて測れないので、そこそこお金持ってそうで、そこそこ文化的なラインの人間で試してみたら、なんや私まだ行けるやんということが分かったということですね。gentlyさんお疲れさまでした。次からは気をつけましょうですけど、それが楽しかったらまぁいいんじゃないですかね、一生話のネタになりますし」

 

この世に甘いお話なんてないんですね。知ってたけど。

 

追伸 自分で読み返してみて、どこかで読んだことのある話だなと思ったら有吉佐和子の「悪女について」でした。いい女というのは基本的に悪い女です。でも、やっぱり悪い女というのはいい女なんです。もっとも、いい女とはどんな女なのか、この二十年で理解できたためしがないんですよね。