working-report 2回戦

ゲーム脳はゲーム脳のままで熱を失うだけ

受験が恋を連れてきた話

皆様こんにちは。今年も大学入試のシーズンになりました。時期は違うのですが、毎年思い出すことがあります。甘酸っぱいようなむずがゆいようなお話です。

 

季節が秋から冬になるころでした。筑波大学の推薦入試のために手配した宿が土浦にあって、おじいさんとおばあさんが大変親切にしてくれました。その宿に、東京からやってきた女子高生が宿泊してたんです。田舎の男子高校生ミーツ都会の女子高校生。当然意識するじゃないですか。

その頃の私は自分で言うのもなんですけど、カッコよかったと思うんです。腹も出てなくて、顔つきもきりっとしてて、首回りもすっきりしてて、メガネからコンタクトデビューして、なにより若い。18ですよ18。今や見る影もありません。

 

さて、いくら私がカッコよくて、いくら宿のご夫婦が親切でも私と女子高生が同じ部屋に泊まるわけではありません。夕食どき、食堂がそんなに広くもないせいか、他に席があるのに彼女が向かいに座ってきて、

「もしかして、筑波受験ですか?」
「あっ、同じですか」
「そうなんです!」

すっかり意気投合しました。翌朝も2人仲良く同じ時間に出発して、バスに乗ってキャンパスへ向かったわけです。今はTXも出来て行きやすくなったよね、筑波。

 

バスは意外と混んでました。2人並んで立って吊り革を掴んでたら、彼女が私の手をつかんだんです、両手で。吊り革つかんでる方じゃなくて空いてる方の手をね。会話中に身振りで動いてた手をね。私の恋人ではないほうの手を。

英単語詰め込んだって仕方のない、小論文と面接で完結する入試だったので小声でおしゃべりしてたら突然そんな急展開が訪れたもんですから、私急に暑くなってきちゃって。えなにこれ。なにがおきてるの。

 

「なんだか緊張してきちゃって、こうしてると、落ち着くの」

 

彼女の手は信じられんくらい柔らかくて、ほんのり汗ばんでて、熱かったです。落ち着くなら仕方ない。しばらくこうしていようか。いやいや。昨日会ったばかりなのにそりゃないよ。劣情を、持て余す。

そしたらバスが急ブレーキ踏むんです。信号か割り込みか知らんけどありがとう!と叫びそう。私の懐に、彼女の長い髪と頭と肩がふぁさーっと凭れかかってきて、リアルな人間の重みとシャンプーの香りがしたんです。ほ、ほー。ほー!ほっちゃーん! ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!

鬼神のごとき忍耐力で抱きしめたい衝動に打ち勝った私は

「……大丈夫?」
「……う、うん」

あかん。ここまで色々勉強してきたけど、全部吹っ飛んだ気がする。紺地に赤いラインの入った見慣れんブレザーの男子高校生と、冬前の筑波は相当寒かろうに気合の入った膝上スカート&紺に白リボンのセーラー服にセーターを羽織った女子高生による、こっぱずかしくなる茶番劇を見せられた周辺の乗客から怨嗟の声が聞こえてくるようです。

 

2人はそれぞれの教室に分かれました。小論文のテーマ。なんだったか忘れました。面接。色々聞かれましたが覚えてるやりとりはこれだけ。

ルクソール神殿で日本人が多数銃殺された事件がありましたが、なぜイスラム過激派は日本人を殺したのでしょうか」
「なんででしょうね、分かったら誰も苦労しないと思います」

後日これがコンプレックスになって中東情勢とユダヤパレスチナの歴史を山内昌之先生の本で猛がつくほど勉強しましたが、いまだにこの質問にどう答えたものか分かりません。文学部は意地の悪い教師が多い。アジア圏のインバウンドが伏見稲荷の千本鳥居で立ちションしてても、私らがそいつを殺したりはしませんけどね。

 

そんな次第で不合格を確信したにもかかわらず私は元気でした。なぜって、帰りも待ち合わせしてたから。

「またここで会えたらいいね!」

彼女からにこやかに言われた私は「そうだね!僕もまた会いたい!」と言い残し、親戚の家に寄る彼女と土浦で別れ、水戸へ向かい、その日のうちに地元に帰りました。別れ際に握手したときの彼女の手は変わらず柔らかかったけど、ひんやりしてました。

 

後日。彼女から手紙が来ました。私、住所も交換してたんだな。LOVEじゃん。

 

推薦入試は落ちちゃったので、前期試験で頑張るからgently君も頑張ってね。

一緒に筑波合格!!

 

あまりに嬉しすぎて今でも実家のどこかに保管してあります、私の机が廃棄されていなければ。どんな返事を書いたかはさすがに忘れました。覚えててもここに書けないようなことを書きました。どうか私が有名になっても出てきませんように。

先生「お前……落ちたのになんや嬉しそうやな」
じぇ「そっすかwwwんなことないっすよwww」

当時、交際というほどでもないけど手くらいはつないでた地元の彼女に、他の女の匂いを嗅ぎつけられるほど浮かれる馬鹿者でした。確かにあれから関係がおかしくなった。2日ばかり行動を共にしたユリちゃん。思い出補正もあるだろうけど、可愛かったなぁ。今頃どうしておいでだろうか。今夜は煙草が目にしみる。

なんのエールにもなってませんけど、受験生の皆さん頑張ってね。