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皆様こんにちは。いいお題は記憶のフタを開くんですね。なので今回もお題から書きます。
お題「周りにはあんまり好きな人がいなかったけど自分的にぐっさり刺さってた漫画(アニメ)」
このお題に沿って書かれた記事をいくつか読んでみて感じたのは、「刺さった」とはどういう状態なのか、人によって違いがあることです。作中のキャラクターが好きになりすぎて恋したり、重厚でハイコンテキストなストーリーに引き込まれたり。
私の場合は、役者の演技です。上手とかカッコいいとか、具体的に書き出すのが難しくてありきたりな表現になっちゃいますけど、心を激しく揺さぶる演技がごく稀にあります。それも決まった誰かではなく、芝居の限られたシーンで、その人にしかできないと思われる演技を見た時、とでも言いましょうかね。
そういう作品って多くの人に支持されて有名になる、評価されるものですが、アニメに限らずあらゆる芝居の分野で必ずしもそうならないこともあります。周りが評価しない、とはそういうことだろう、と仮定して続けます。
今までに聞いたことのない少女声でありながら心の芯を感じさせる東山奈央さんと、魔法少女と灰色狼を経て、軽薄かつ小悪党みたいな意地悪さと人の良さを内包した悠木碧さん(以下、あおちゃん)、その掛け合いが好きすぎて、異国迷路のクロワーゼ(2011年)はBlu-rayを買い揃えてしまいました。
作中、派手なアクションやドラマに目が慣れた私たちには、何かが起きたようには見えません。フランスにやって来た日本人少女と、腕はいいけど貧乏そうな看板職人の若者と爺さんの暮らしがひたすら丁寧に描写されます。
作りかけの看板を壊してしまう、大事な着物がお金持ちの手に渡ってしまう、熱を出して寝込んでしまう、猫を追って商店街の屋根に上がってしまう、極めてささやかな出来事ばかりです。多くの人にとって退屈でしょう。私も退屈です。
それでも。あんな小さい子が単身、大して金持ちそうにも見えない爺さんにエスコートされてフランスまで渡航した目的なんて深く考え出したらキリがないけれども、和装でちょこちょこ動き回る主人公の湯音ちゃんがめちゃくちゃ可愛いんだな。「はいっ」てお返事を聞くだけでも見る価値がある。
フランスが舞台なので、言語は当然フランス語です。ただしナレーションだけ。見ているのはほとんど日本人ですから、フランス語が話されている、という前提で日本語のお芝居になります。
その中で、フランス語の学習途上である湯音ちゃんはすらすら喋ることができないので、日本語がカタコトになります。
この演技を、下手なのは日本語ではなくフランス語なのだ、と誰に言われるでもなく即座に理解できる日本人の特性って、世界に類を見ない見立て能力ではないですかね。
なので湯音ちゃんは「はいっ」てお返事する時、言語的に間違えていない自信があるから元気いっぱいなのでしょう。これは深く刺さりましたね。可愛過ぎへんか。
そんな湯音ちゃんをどうにかして思い通りにしたいお金持ちのアリスちゃん、ジャポニスムの過ぎた変なお嬢様をあおちゃんが演じきってます。いかにもあおちゃんらしい表現の意地の悪さがいい。特に4話、湯音ちゃんを自宅に招待しての、品のない見せびらかし感がたまらなく好きです。私、あおちゃんの演技が大好きなので……
working-report2.hatenablog.com
原作者の武田日向さんの漫画単行本は2巻で終了しています。線の細い、美麗な絵を描く方でした。終わり方が壮絶すぎてびっくりしましたけれど。
収納ボックスの書き下ろしイラスト、可愛いですね……ファンの方なら富士見ミステリー文庫のGOSICKシリーズのカバーイラストも懐かしく思い出されるでしょう。つくづく、早すぎるお別れが惜しまれます。
私が確認した限り、複数のサブスクメディアで配信されています。オープニングを歌う羊毛とおはな・千葉はなさんの優しい歌声と作風がこれ以上なく合っていて、シリーズ構成を務めた佐藤順一さんの世界観が90秒に凝縮されています。……千葉さんもお別れから9年経ちました。
師匠「ま〜たもっともそうな理由つけてロリコン崇拝ですか」
じぇ「んだよ文句あんのかよテメェ間違ってねぇだろコラァ」
派手な事件がないのは感想の分かれるところですが、こういう作品もあるんですよ?と知っていただきたい。異国迷路のクロワーゼはそんな作品です。