working-report 2回戦

ゲーム脳はゲーム脳のままで熱を失うだけ

沖縄とアクアトープと私

皆様こんにちは。朝ドラご覧になってますか。私は歯磨きながら見てます。現在放送中の「ちむどんどん」がどんな話かざっくりご説明すると、1972年前後の沖縄から東京に出てきた料理人志望の田舎娘の話です。沖縄出身の女性は我那覇響ちゃんしか面識がありません(たぶん響ちゃんは私を知らないと思いますし、私が画面の前で半笑いでプロデューサー業をやってるだけの状態を一般的に面識とは呼ばないことは社会通念として知っておりますが便宜上そういうことにしてください)ので、私の中の沖縄少女スタンダードは必然的に響ちゃんになります。

師匠「沖縄の子がはいさーいなんて言わないから、こんにちはだから」
じぇ「はいたい七葉はどうなんだよ」
師匠「うちなー同士はああだから、大和人はよそ者だから」

朝ドラの脚本家や演出家が沖縄少女にどんなキャラクターを期待しているのか見ていればだいたいわかるというもので、基本は底抜けに明るく、方言丸出しで、声が大きくて、いい子なんですよね。よく言えば屈託がない、悪く言えば弁えない。これ、響ちゃんなら可愛いですけど、実在の女優を通して見せられるとものすごくイライラします。決して黒島結菜さんが悪いわけじゃないんです、本書いてる人のステレオタイプが悪いんです。厨房でもホールでもデカい声でしゃべるし、人同士の絆やら家族愛やらを見せつけてくるし(金にだらしない兄に対して甘すぎるのはどうなのか)、押し出すべき価値観のTPOがずれています。今年は沖縄の本土復帰から50年の節目ですので、最後まで見ていいお話だったねと言えるものにしてほしいですね。

 

師匠「沖縄の海は見るものだから、入るものじゃないから」
じぇ「みんなリゾート気分で行ってるやん、入ってるやん」
師匠「みんなよそ者の大和人だから、うちなーいないから」

 

何年か前に電気火災かタバコの不始末で全焼した首里城の城郭が完全復元されたのは1992(平成4)年でした。翌93年の大河ドラマは戦国末期の沖縄が舞台の「琉球の風」、オープニングは歴代初の歌謡曲、チンペイこと谷村新司さんの階(きざはし)でした。

スケベだけどいい曲書くし歌うまい

主人公の兄だった渡部篤郎さんの演技が狂気じみてて滅茶苦茶怖かったのと、ドラマの冒頭で前作「信長 KING OF ZIPANGU」の仲村トオルさんがこれまた歴代初の同じ秀吉役で登場し、家来役のポール牧さんと差し向かいで琉球の地図を眺めながら高笑いするシーンもありました。またまた史上初の半年打切りとなったのも思い出です。その後に奥州藤原氏の話を1年半やったNHKはものすごいこだわりがあったんでしょう。村田雄浩さんが馬を駆るシーンはさながら本物の武士のようでしたけど。

琉球の風」はドラマの出来自体悪くなかったと思うんです。ただ、琉球王朝の苦難、島津氏の侵略によって最終的に日本の属国となった歴史が重苦しくて、正直見るに耐えなかった。実際はどうだったのか、当時のことを本格的に学習したわけではないのでなんともなんですけど、もしあの通りなら、そして日本列島最南端の防衛拠点として唯一連合国軍の上陸作戦が展開され、多くの人が亡くなられた歴史を顧みるとき、周辺国の野心によってずたずたにされた沖縄の人々の日本本土に対する思いは複雑この上ないだろうと想像します。

 

じぇ「沖縄で『活動』やってるのほとんど大和人でしょう?」
師匠「よく知ってるじゃん!あいつらほんとうるさいんだよ」

 

沖縄と言えば基地問題基地問題と言えば沖縄というイメージを作り上げてきた活動家はそのほとんどが本土からの侵略者すなわち基地外という笑えない状況に加えて、革新系の現知事は政治手腕的に歴代学識エリートと比べものにならないのだそうです。

師匠「いずれはペンションやりたいんだ」
じぇ「掃除夫でいいので雇ってください」

それにしても沖縄はいいところだと思います。行ったことないけど。いいところだから変な奴がいっぱい群がってくるのです。ゆたぼんの親父とか。

 

じぇ「そんなことより白い砂のアクアトープ見ました」
師匠「伊藤美来のイントネーション断念した時点でダメだね、沼倉愛美は努力したよ?全然うまくないけど」

 

ダメかどうかで言うと私も最初はダメ寄りの評価、これまでのPA作品に馴染んできたからこその辛口評価でした。言葉の扱いや人々の温かさといった沖縄特有の状況以前の問題として、あのお話を沖縄に舞台設定する意味がどこにあったのか、最後まで分からなかったんです。海きれい、小さい水族館、大きい水族館、優しい人たち、まぁ分からなくはない。途中までの展開は沖縄要素が一切必要ないと思いながら見ていたら、これがそうでもなかったんですけど後述します。

がまがま水族館は訪れた人に過去を見せる不思議な場所だったのに前半クールで消滅。後半から主人公たちの職場になるアクアリウム・ティンガーラでもそれが起きるのかと言えばなくもないんですけど、最後にあんな感じでしたのでね。沖縄だっていいことばかりじゃないのは先に申し上げた通りで、ただ夢のような島、リゾート観光PRみたいになってませんかね?と。

主人公の思考回路にも言いたいことがあって、早々に父母を亡くした主人公が唯一父母に会えるキセキ?の場所としてがまがま水族館に固執してたのに大人の事情であっさり説得されてしまう様子、特に立てこもり前後のシーンはいろんな人に助けられてたことに気づいたのでしょうけど、それ(生き物の安全)とこれ(死んだ父母との再会場所としての価値)とは話が別だろう?みたいな違和感が残りました。経営との両立を図るためにキセキを売りにしようとしたくらいの狂信性を持ちながら意外と大人だったというか、諦めが早いというか。

 

じぇ「あれ以上ゴネたところで好転しないのは分かり切ってたけどね」
師匠「人間の破滅が見たいならPAよりニトロプラスだよ」

 

後半はアクアリム・ティンガーラで働くことになる主人公。配属先は生き物のお世話係ではなく事務方の営業でした。

 

じぇ「本人がやりたいって言ってることをやらせないのはなんなんだろう」
師匠「好きなことで夢破れたら社会復帰できないからじゃない?」

 

そこからは未経験の職場でしごかれる高卒1年目のみゃーもりのような働きぶりです。職場への順応が早い。でも彼女は超人じゃないのでしくじリます。言うほど大きなしくじりじゃないけど、何のために仕事しているのか引っかかるんですね。その時彼女は全てを放り出して離島に逃避して、ウミガメの孵化を自らの境遇と重ね合わせ、彼女を連れ戻しにきた元アイドルの飼育員の後押しもあって職場復帰します。これができるのは沖縄だからですね。だから沖縄であることには意味があった。本土にいてこんなことしてたら職場のデスクが無くなってますわ。

 

じぇ「プランクトンって呼んでる上司ハラスメントじゃね」
師匠「客商売の現場のパワハラはあんなもんじゃないよ」
じぇ「俺はやりたくない法務に2年いて心身枯れたわ」
師匠「やりたいことで枯れるよりマシじゃないかな」

 

私には逃げ道なんてありませんでしたし、あったとしても見えてなかったでしょうね。ぷりっぷりのかつおがさ、枯れ節のようにかっさかさになるあの経験がなければ、たぶん私は社会人を20年以上も続けられなかったでしょう。うまく逃げることができなくて、よく分からない上司からよく分からない法解釈の説明をされて、居残って作業しても一向に終わる気配がなくて、考えてもさっぱり答えが出なくて、作業という言葉を極度に嫌う先輩から業務と言い直せとかよく分からない叱責を受けて、冬のボーナスで大型テレビを買ったことについてクリスマスの夜に喫茶店で上司から叱責を受けて、2年目にやって来た別の上司との相性は最悪で心身疲弊して、毎晩寮の晩飯(1食300円、要予約)が廃棄される時間に帰ってきて、ちゃぷんと風呂入って寝るだけ、日曜は極度の疲労で起き上がれないほどなのに総会前の繁忙期には先輩方から鬼の電話ラッシュがやってくる、あの暮らしがなければ。だって、あれ以上に辛い日々なんてもうないと思いますから。

 

じぇ「本当にそうかな、鬱だったんじゃないかな」
師匠「過去を直視するのはよくないからやめよう」

 

海への憧憬を描いたP.A.WORKSの過去作に「凪のあすから」があります。美しいことや楽しいことばかりじゃない、生きている限り喜びと等量とは限らない深い悲しみがあるかもしれない、それでも食いしばって生きていくんだというメッセージが明確だったから、私の中では高評価なんです。正直終盤は謎展開も多かったけど。記憶戻ってるやんとか言いながら見てたけど。やなぎなぎさんが切々と歌うエンディングも演出効果としてバッチリでした。

アクアトープはこの10年ほど、人生で大事にすべきこととお仕事との付き合い方、両立の仕方を模索してきたPAらしい作品になっているとは思います。さすがだなぁと思ったのは、今の場所に留まるための努力ではなく、キャリアパス、次の一歩を踏み出すことの大切さ、自分一人では気づけなかった可能性にまで、2クール24話を使って描き切ったことです。方向性を誤ると単なる社畜製造機になりかねない難しい部分をちゃんと表現しています。また、「凪のあすから」では見られなかった社会的課題へのアプローチ、海洋汚染問題や温暖化に伴う水温上昇による環境変化なども取り入れようとしていました。水族館経営を通じて複眼的に世界を見つめようとする姿勢を感じました。

aquatope-anime.com

海の青と、タイトルにもなっている白い砂に統一されたビジュアルやアイキャッチ、草野華余子さん作曲のオープニング、作品を彩った全てに高評価をつけています。人気アイドルユニットを出奔した子がいきなり沖縄にやってきて飼育員への華麗な転身とか、海洋学を学んで就職するスーパーウーマンのシングルマザーとか、人物描写にもう少し現実味を持たせてほしいなと思ったことは黙っておこう。

 

師匠「今さら未知の可能性とか言われたらどうする?」
じぇ「体のいい肩たたきにしか聞こえんな」

 

あ、うどんちゃんこと照屋月美ちゃんは好きです。画像貼れないので(貼ったら著作権アウトなので)上記サイトリンクからキャラクター紹介をご参照ください。アイデアを出してお料理ができる女の子は……いやこの辺にしておきます。「性別を基準に役割を押し付けている」とか、その人が楽しみを見出して一生懸命やっていることに訳のわからん難癖付ける人が増えましたので……世界は広いのに日本は窮屈だな。