working-report 2回戦

ゲーム脳はゲーム脳のままで熱を失うだけ

あとの祭りのあと

皆様こんにちは。世間はきのうハロウィンだそうで、私の住まう超高層マンションの超低層階の一室にも、ふもとの飲み屋から狂声が聞こえてきました。うちも負けず劣らず平野佳寿が五者凡退で締めくくるまで大盛り上がりでした。甲子園のどんでん胴上げを阻止できただけでも私は嬉しい。過去と未来、すべてのボンタン刺繍虎柄金髪茶髪のお兄さん方を生まれる前に消し去りたい。

 

今朝の通勤経路はゲロまみれというほどではなかったものの、ところどころHighway to the DANGER ZONEになってました。知ってましたか。ゲロってうっかり踏んづけただけでもキモくて臭くて運悪いのに、滑るんです。こけたりして私の着衣までゲロまみれなんて、死ぬよりもっとひどい。

ゲロまみれと言えば昔、元彼女(現在の嫁という意味ではなく元彼女のままどこかへ去っていきました)がおんぶしてる最中に私の肩口へ盛大にゲロしましてね。いい年して酒量の限界も弁えられない女はダメです。自分のベッドに寝かせて、私にゲロった女と添い寝する趣味はなかったのでソファで寝たからよかったものの、普通の男は抗拒不能をいいことに犯しまくります。

当時はまだ交際してませんでしたから相手の名前もうろ覚えで、行きつけだった今は亡きブックカフェ&バーでたまたま知り合った程度のころでした。店のオーナー(と言っても年季の入った老女)が私と彼女の間に入って、「おごったる」と言ってマティーニを散々飲ませたのが悪かった。

 

気がついたら午前3時。オーナーと大阪万博の行く末について色々語ってる間、彼女はほとんど意識を失っていました。死んでるんちゃうかと思うくらい。

「あんた、ちゃんとしたりいや!」

はいはい連れて帰ればいいんですね。これが「おもちかえり~!」というやつか。全然そんな気分じゃないんですけど。私も泥酔してるのに、早く家帰って横になりたいのに、なんで人体を背負わにゃならんの。

 

うーだかあーだか言いながらもウトウトしている彼女を背負って歩き始めて5分ほどが経過。すると、交差点の向こうから仲良くお揃いの服を着て武装した男性2人組が走って近づいてくるじゃないですか。なんて治安の悪い街だ!その第一声が

「ちょっと君、どこから来たの?」

桜田門および桜代紋の疑り深さは知ってましたけど、そんな悪そうなことしてるように見えますか。これはね、人助けですよ。ほら、隣にオーナーもいて一緒に歩おいおいオーナーいないよどこ行ったの!私、いま、職務質問受けてるんですケド!チョ~受ける~!

「うえ、あの、そこの、店ですよ」
「それから?どこに行くのかな?」
「うぃ、うちに、帰るんですけど」
「背負ってる女の人はどうしたの」
「店で酔っぱらって動けなくって」
「それで?家まで送っていくの?」
「私ん家に連れて帰れと言われて」
「君一人じゃない、誰が言ったの」
「さっきまでもう一人いたんです」
「女の人は知ってるの?名前は?」
「えぇ?名前……なんだっけ……」
「知らんの?どういうことかな?」

マティーニの酔いも一気に醒める雲行きの怪しさ。これはあれだ、「続きは署で訊こうか」的ベタ展開っていうんですか?任意同行ってなんにも任意じゃないよね。知ってましたか。この国で「任意」ってつくものはだいたい強制なんです。取り調べのかつ丼の故郷の母さん泣いてるの。

誘拐?拉致?監禁?強制わいせつ?未遂の罪ってあるんだっけ?「それじゃちょっとタイホね」ってカジュアルに言われちゃったりするの?手錠映え~。あかん、これはあかん。

「この人知ってます、大丈夫です」

起きてくれたよかおりちゃん(仮名)。きわめて形勢不利な重要局面でまさに起死回生。女性が自分の意思で話し出すと圧倒的説得力が伴うのです。名前もまともに知らん男にめっちゃおんぶされてるけどな。

「そうなの?家帰れる?大丈夫?」
「大丈夫です、ちょっと休んだら」
「しんどそうだね?救急車呼ぶ?」
「……ZZZ」

寝るなかおりちゃん(仮名)。私にかけられた容疑を晴らせ。私のお持ち帰りを阻止したい桜代紋たちの手配で救急車を呼ぶことになり、いったん背中から降ろして路上に座らせてる間にピーポー音をけたたましく鳴らしつつ接近、大急ぎでストレッチャーを下ろした瞬間

「大丈夫です歩いて帰れますから」
「本当?大丈夫なの?歩けるの?」
「歩けます、休憩したら歩けます」

ちょくちょくシャキッとするんだなかおりちゃん(仮名)。パンツルックとはいえ路上であぐら組んでるけどな。せっかく救急車来たんだから病院でも自宅でもとりあえずうち以外の安全な場所に帰りなよ。

あまりにかおりちゃん(仮名)がはきはきと応対するものですから、公務員御一行様は腑に落ちない顔をしながら退散しました。特に救急隊員の人ごめんなさい。わざわざ血税使って動員したのに無駄足になっちゃって。

 

さ、帰れるって言うんだったら私もこのまま失礼しよっかな。もうちょっとしたら始発も動き出すでしょう。めでたしめでたし。

「コラァ!置いてったらあかんやろ!」

藪から棒にデカい声で叫ぶオーナー。私とかおりちゃん(仮名)を置いて隠れてたのオーナーじゃないですか、指名手配でもされてるんですか。もうちょっとで私の独身貴族生活が破滅するところだったんですよ。頼みますからちゃんと援護射撃してくださいよ。

「……ZZZ」

寝るなかおりちゃん(仮名)。今あなたのせいで色々な人が現在進行形で迷惑ingなのだ。到底歩いて帰れる様子ではないので、結局私が再おんぶすることになりました。

「ちゃんとしいや!わかったな!」

ごく一時的に消息を絶ったオーナー。再登場後は鬼の居ぬ間に洗濯とばかりにのびのび躍動し始め、颯爽と手を上げてタクシー捕まえて千林のご自宅へ帰りました。やっぱり、なんか悪いことしたんかな。

ぐふふ、二人きりになっちゃったね。そしてまた脱力しきった人体を背負ってよたよたと歩き出す私。歩けるってゆってたやんけ。公務員にウソついたらあかんやろ。

「私のことなんてほっといてください」
「べろんべろんでなにゆうてんのもう」
「私にはそんな価値なんてないんです」
「ちょっとなに言ってるかわかんない」

酔っぱらいって、なんでこんなに面倒くさいのでしょう。クソ寒い夜中、もうほとんど朝ですけど、路上で行き倒れてたらかおりちゃん(仮名)死んじゃうよ?

「gentlyさんはほんまええひとやなぁ」
「動かんといてくれる?こけそうやし」
「……うっ、ううっ、ありがとうなぁ」
「もうちょっとで着くからがんばって」
「……うっ、ううっ、おえーーーーー」

嗚咽ではなくオエー。世間一般のお持ち帰りって、こんなんの後にイチャコラしてんの?バカじゃないの?

 

スズメがちゅんちゅん鳴き始めた頃にようやく自宅にたどり着いて、ゲロまみれになった私のスーツはゴミ袋に入れて、同じくゲロまみれのかおりちゃん(仮名)のコートを脱がせて、汚れたところは水拭きして置いといて、化粧落としなんてしたことないんですけどカピカピに乾いて口元に貼りついたゲロもふき取って、ベッドに運んで寝かせたら

「ふ、ふふ、ねぇ、一緒に寝よ♥」
「ほんまええ加減にせえよおまえ」

ソファでひっくり返ってたら、午前10時くらいになってようやくかおりちゃん(仮名)は目覚めました。そして私に言いました。

「あなた誰ですか?ここどこ?」

そんな女とほんの短いひとときでも交際することになったのは気の迷いでした。5年前の事件を一度も文字起こししてなかったのを思い出したのでつらつら書いてみました。今年も残り2か月を切りました。皆様もどうぞ身体も精神も健康にお過ごしください。