working-report 2回戦

ゲーム脳はゲーム脳のままで熱を失うだけ

「救いたい」の欺瞞

皆様こんにちは。金曜の夜に職場の元同僚たちが集まっていろいろな話をしました。

 

竹田恒泰が言ってたんですけどね、とりあえず子供が産まれたら1,000万円差し上げますでいいんじゃないの」
「それだと産んですぐ子供を捨てたり殺したり鬼が出そうですけど」
「一定期間養育義務を設けるか、ステージに応じて分割支給するか」
「それも誰がどうやって確認するんだというね」

 

首相は年明け早々「異次元の少子化対策という、聞き方次第ではとてもセクシュアルな発言で日本国民の失笑を買ったわけですが、出産一時金を増額した程度ではインパクトに欠けます。ちまちま配ろうとすると手数だけかかってなんの恩恵も感じられません。

子育て以前に日々の生活に困窮している世帯が多数ありすぎて、結婚を考える余裕すらないという話もよく聞きます。現金支給したところで、本当にその子のために使われるか誰にもわかりません。私はコロナが始まった直後に全国民に支給された10万円をメイドインアビスのBlu-rayBOX上下巻と高いワイン購入に充てました。そんなもんですって。景気回せって言われてるんだと思いましたもの。貯蓄に回す人がいただろうことを思うと、あんなに効果の薄いばらまき方もなかったなと思います。

 

一億総中流と言われたように、かつての日本の繁栄を支えたのは経済的にも知的にも真ん中あたりを維持してきた、いわゆる「分厚い中間層」でした。彼らが旺盛な消費意欲を示すことで経済が活気づき、賃金も物価も上昇し、限りなき繁栄を享受できるかのような錯覚に陥りました。いわゆるバブル景気です。

ところが、不動産価格の異常な上昇を重く見た政府による関連政策の変更及び日銀による急激な金融引き締めから始まった90年代中盤以降の不景気、いわゆるバブル崩壊及びそれに続く物価の下落、賃金の下落、企業の倒産、円高の進行、さらなる物価の下落という、いわゆるデフレスパイラルは長らく日本を苦しめ、現在のコロナによる数々の自粛によって疲弊した日本経済は中間層の生活基盤を支える余裕を失い、正社員の減少すなわち非正規雇用の常態化を招き、さらなる賃金の下落によって収入が下がりに下がり、多くの世帯が中間層から下層へ転落しました。

 

そして現在。中間層は薄くなったままです。私は今中間層にいるのかどうかすら自覚がありません。日々の暮らしに困ってないのでたぶん中間層なんでしょう。貯金なんてすっからかんですけど。政治がこの間何をしていたのかはよく知りません。少なくとも30代〜40代を過ごした独身男性のサラリーマンは、コロナ10万円以外手を差し伸べられることはなかったです。

収入が回復しない状況が続くと、世帯支出において最初に削られるのは遊興費と学費です。ちょっとした贅沢や、きちんと学べる環境の喪失は、次世代の伸びしろを縮めます。美味しいものを知らない子、若いうちにちゃんと勉強しない子は上昇志向も持たなくなるので、いろいろな意味で本当にアホになります。

アホは社会に出ても使いようがありません。知識も技術もない子は高待遇の職種につけず、代わりがいくらでもいる仕事以外に生活手段がなくなるのです。そんなこと誰でも知ってるよと思うでしょう?でもね、今は「誰でも」の幅がとても薄いのです。中間層が薄くなるというのはそういうことなんです。最低限のことも知らない、常識をわきまえない、そういう人が不景気の時代を経て激増しています。

 

生活環境、日々の営みが人の経済階級と知的階級を決定するという趣旨の話は以前もした通りですが、その最底辺の所業が回転すしチェーン店のぺろぺろ君なんだろうと思ってます。一応高校に通いながらも、学校で何を学んで、家や外で何をしていたんでしょうね。

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この動画投稿に対して、ネットを中心に凄まじいバッシングが展開されたことはご承知の通りです。ぺろぺろ君の所業は学校の特定、氏名の特定、住所の特定、電話番号の特定に至り、連日のように苦情の電話や嫌がらせが行われているようです。同じ学校の子たちは卒業、就職を控えてとんだ冷や水を浴びせられたことでしょう。

また、被害を受けた回転すしチェーン店の客入りが激減したことを受けて「●●ローを救いたい」と主張する一部の人がお店の魅力を伝えようと、真反対の趣旨で動画配信を行なっているようです。

やったことに対して相応の罰を受けるのは致し方のないことです。刑事罰や民事の損害賠償は法で定められた上限があり、その範囲で償えば済む話です。そして法廷の外では社会的制裁が同時に行われるのですが、こちらには際限がありません。インターネットの普及以来、情報伝達速度は爆発的に向上し、全国のネットユーザーがぺろぺろ君の所業を罵りまくりました。ご近所もさぞかし迷惑していることでしょう。もうそこに住むことすらできないかもしれません。

冷たい言い方かもしれませんが、ネットとはそういうものです。ある意味SNS界隈でちょっとした話題になろうとしてあのような行為をしたのでしょうから、(本人の願いをはるかに上回る規模と真逆の方向性ではあったものの)その願いは確かに叶えられたじゃないか、と宇宙から来た白い四つ足のあいつは言うでしょう。まさに因果応報。円環の理。

ぺろぺろ君とそのご家族は誠に気の毒と言わざるを得ませんが、ここまで個人情報が暴露されてしまった以上、インターネットの恐ろしさ啓発と模倣犯撲滅のため、徹底的にスケープゴートになっていただくより他ないと私は思います。

 

社会の反応としてここまではわかるんです。わかるというか、起こるべくして起こることだと思うんです。おかしいのはここからです。

 

なんで回転すし店に行かないだろうステータスの人間にこんなこと言われなくちゃならないの?かつてホームレスより猫を救いたいと抜かした自称メンタリストが、今度は回転すしチェーン店を救いたいですって?へそで茶が沸くわ。そんなこと言うならお前が行けよ、行って金落とせよ、救いたいんだろう?松丸亮吾くん泣いてるぞ?って思いませんか?思いませんか。そうですか。

 

この発言がきっかけかどうかは特定できませんが、趣旨に賛同する一部の人々の行動変容を促したようで、「#●●ローを救いたい」で検索すると雨後の筍のように似たような投稿が出てきます。動画も一応見てみたら、有象無象の配信者がボロボロ出てきました。

本当にお店を救いたいなら黙ってお店に行って、たくさん食べてお金を落とせば済む話じゃないの?店に頼まれもしないのに勝手に動画を撮って、ただの目立ちたがりと何が違うの?そんなことしなくても、本当に回転すしチェーン店がなくなると困る人は黙ってお金落としに行くよ?大体、赤の他人が寿司食ってる動画なんて、何の需要があるの?こんなの、粋でも何でもないわ。

 

私は事ここに至って、日本人の中間層、あるいは下層の凄まじい知性の劣化を感じるのです。お店が、配信者あるいはそれに準ずる人たちの踏み台にされています。ぺろぺろ君の動画は批判されて、その後に続く「救いたい」人たちの動画が賞賛されるのは間違っています。

もっと上から物事をよく見ましょう。お店を挟んで前と後ろ、どちらにも動画配信者がいて、前の配信者が生まれなければ後ろの配信者は存在しないわけです。これはマッチポンプと同じで、ぺろぺろ君も「救いたい」人たちも、結局はアクセス数稼ぎが目的なのです。動画コンテンツ優位の考え方によって、回転寿司チェーン店を救うという本来の目的が劣後した、順序を見失った行為なのです。

 

経済の縮小が生んだ悲劇といえばそれまでかもしれません。これは突発的に起きたことではないのでしょう。物事の優先順位もわきまえられないほどに、かつて中間層を支えた日本人が経済的転落に引きずられるように、知性も転落しているのだろうと私は思います。